●取り組み背景
労働人口減少による人材不足の懸念、また介護福祉業界は今後、競争の激化と淘汰の時代へと移っていくことが予想される。このような事業環境の変化に対応し、長期的に事業継続し、選ばれる介護事業者となるべく、ダイバーシティの視点から取り組みを推進していく。
●目指す姿
◆管理職(事業所責任者)が所管施設における経営機能を果たし、
介護業界における事業環境変化に対応できる事業者として成長できる状態
◆職員一人一人の能力発揮のため、職員の色々な考え・意見を集め、受け入れる。
またそこから課題設定と対策を実行し、人材育成及び法人の活性化ができる状態
●短期的目標
1)目指す姿に対する現場中堅層の状況把握
2)行動計画の方向性策定
●中長期的目標
法人の意思決定機関(幹部会等)における、行動計画の承認
●取組のあしあと
1.取り組み概要
課 題 |
◆男女関係なく管理職育成をスタートさせているが、管理職人材自体が現場対応も行っており、利用者優先になってしまう理由から取り組みが進んでいない。
◆長期的な法人経営の在り方を踏まえ、管理職のあるべき姿・管理職育成についてのジェンダーギャップを埋める方法を検討する必要性がある。 |
取 組 |
◆将来の管理職候補にもなる現場中堅層に対するアンケート調査の実施
(支援内にて、アンケート調査項目の決定→実施→分析 |
効 果 |
◆D&I推進に対する担当者の認識の変化を起こせた。
◆アンケート作成~調査期間・結果分析まで、セクション毎に実施期限を設けたことで、次期行動計画策定への提案資料作りを早期に終わらせることができた。幹部会への報告までにも時間の余裕が持てる結果に。 |
▲初回コンサルティングの様子。
法人設立時まで遡り、取り組み背景をヒアリングすることで、目指すべき姿とは何かを明らかにしていった。
2.具体的取り組み
◆法人運営についてのヒアリング、整理
担当者へ法人及びD&I取り組みについて、全般的にヒアリングした。(D&I推進における目指している姿、法人運営の状況、キャリア形成・両立支援、離職の状況と対応など)
このヒアリングにて、現場中堅層が次期管理職候補の立場にあり、管理職と現場をつなぐハブにもなり得る存在であることも認識できた。この層へ意識調査を行い、「ありたい姿」に対する問題意識や意見等を把握する。
◆現場中堅層向けアンケート調査の作成
アンケートは何度もコンサルタントとブラッシュアップし、内容を固めた。回答者の思考を深められるような構成とした。
◆問いの流れ:事業環境→組織→個人
◆アンケート結果の分析
アンケート調査の結果から分析を実施。以下の課題などが浮かび上がった。
①事業所運営についての改善点
②管理職とのコミュニケーションについての改善点
③人材育成の方法についての課題
④ダイバーシティの認識についての課題
⑤働き方の希望について
●取組成果と今後に向けて
1.短期的成果
今までの目標が、「女性管理職比率を上げること。そのための施策を立てて実施すること」であったが、コンサルティングを通じて「(女性に限らず)職員の色々な考え・意見を集め、受け入れること。そこから課題設定と対策を実行することである」との認識に変化した。この認識を持った職員からの発信は影響力が大きく、今後の取組にも期待が持てる。
組織全体の課題にボトムアップで取り組む姿勢を、尚生会の新たなスタイルとしていく。
2.今後の取組スケジュール
◎管理者同士の横のつながりの機会設定
主に以下のテーマにて対話・検討を行う。
◆「管理者」の役割・仕事の意味付け・やりがい
◆事業運営上の強みとその事例を共有し、尚生会としての特色、差別化を整理
◆人材育成に関する課題と対応
◆ダイバーシティに関する勉強会の開催
◎業務のICT化の推進
従来は事業所単位での取り組みであったことから、進捗にばらつきが出ている。
このため、上手くいった事業所(大規模事業所)の進め方を参考にしながら他事業所へと横展開を図っていく。

▲アンケート結果を含めた幹部会提出用資料 |

▲職員向け研修の様子 |
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企業担当者からのメッセージ |

法人本部 課長補佐
北村 多果子 さん
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❶コンサルティングを受ける前の思い
D&Iは色々な面での男女比率が同等程度になっていればいい、数字上のバランスが大事といった考えでした。事業内容も十分に理解しないまま「男性管理職とのバランスをとるため、女性管理職を増やす方法を教えていただける」くらいの考えで参加しました。
❷コンサルティングによる変化
自法人について、コンサルタントにどのように伝えていけばよいのかが不安でした。コンサルタントから送られてきた1枚の聞き取りシート、私が入力する一字一句に「何が?」「何故?」「どのような時にそう思う?」等、私の根拠のない無責任な発言を突き詰めてくる聞き取り調査から始まり、事業所見学にも来ていただく中で、法人の「課題」「確認していくこと」「注力する部分」が見え、気付くと自法人の報告ができあがっておりました。
法人内部だけでは先入観や長年の慣習から客観的・理論的に考えることができていないことを実感できました。私が発する愚痴や不平不満がコンサルタントを通すと「強み」や「魅力」、「特徴」へと変換され、意識や考え方で物事が変化することを体験させていただきました。
❸全体的な感想
D&Iを実現するためには、様々な考えや意見を出し合い、よりよい方向に向かって考えていくことが重要で、一部の人の意見や考えで物事をまとめようとせず、時間を要しても手間が掛かってもより多くの意見や考えを引き出す努力が必要なのだと思いました。
多様な人材が活躍できる舞台を作るのには、試行錯誤と挑戦、修正の繰り返しが生じます。失敗しても反発されても、継続していくことをあきらめないでいこうと思います。コンサルティングしていただいた方々との出会いがなければ至らなった思いです。ご尽力いただいた事業運営事務局の方々と貴重な機会をくれた当法人の理事長に感謝の気持ちでいっぱいです。 |
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担当コンサルタントからのメッセージ |
当初の問題意識は「管理職の女性比率を向上させたい」というものでした。現状を把握し、議論を重ねていくと「女性管理職を増やしていく」ということは実は手段であり、D&Iの目的に目を向けることが重要であると気が付きました。
国の介護保険制度のスタート期から発足した尚生会様は、制度の変遷に伴う事業環境の変化を受けながらマネジメント体制や職員構成が質的に変化してきたことが見えたことから、職員の多様性を活かした事業所運営の方向性を提案させていただきました。これを踏まえ、管理職の次の層である「管理者」に着目。その構成は年代・性別・専門性・入職歴が多様であることから、管理者の問題意識を把握。結果、「あるべき姿」実現に向けた課題設定につながりました。
この取り組みを通じて、担当の北村様から「ダイバーシティとは女性管理職を増やすということではなく、多様な職員の声や意見を活かせることである」というお言葉をいただき、D&Iの本質を掴んでいただいたと胸が熱くなりました。
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株式会社
キャリアアンドブリッジ
遠藤 和 さん

ファシリテーション・
コンサルタント
野村 圭司 さん |