事例集Ⅲ

 
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鈴縫工業株式会社
関東道路
ダイバーシティ取組項目
労働環境整備
目的ではなく手段としての環境整備
会社設立 1948年
本社所在地 茨城県日立市城南町1丁目11番31号
事業概要 土木、建築、上下水道ならびに管工事請負、企画、設計、監理、施工、およびコンサルティング業務、不動産売買、仲介、賃貸借および管理
資本金 1億円
社員数 185人
HP https://www.suzunui.co.jp
 
 
取材登場人物
代表取締役社長
鈴木 達二 さん
総務部
市川 晋 さん
総務部
冨田 真歩 さん
工務部
ポカレル プリティ さん(ネパール出身)
取組内容
◉労働環境整備
環境整備を意識した取り組みは、目的ではなく手段であると考えている。全ての取り組みは、「社員一人一人が快適に長く働いてもらうために」という思いで、性別や年齢、国籍などに関係なく能力を発揮し、成長できるような環境づくりを目指している。
社員の半数以上は現場監督であるため、特に現場での環境整備に力を入れている。一例としては、現場での女性用トイレの増設や仮設事務所の快適化などの取り組みがある。
 
 
 

1.取り組みを始めたきっかけと経緯

 
社員が働きやすい環境整備を始めた経緯について教えてください。
鈴木さん
建設業の早期離職が多いといわれている中で、定着率を上げるために取り組みを始めました。若い人を増やすだけではなく、社員の方に長く働いてもらい、ベテラン世代になっても活躍していただいて、若い世代を育ててくれる人材が増えてほしいです。また、建設業は男性中心の職場なので、弊社でも女性が活躍できる機会がまだまだ足りないというのが課題です。そのため、業界全体で女性受け入れの体制を整備していけると良いなと思います。

取り組みを進める際に、参考にしたものや導入しているものはありますか?

鈴木さん
会社として業界団体にも所属しているので、同業他社の取り組み事例を参考にして、取り入れられるものから、少しずつ導入を進めています。最近では、女性専用仮設トイレや快適な仮設事務所など、建設の現場で活用可能な多様性に沿った様々な製品があるので、常にアンテナを張るように心がけています。弊社では、男性トイレのあるフロア、女性トイレのあるフロアというように、フロアごとに男女のトイレを分けることでスペースを広く確保し、エリア内にミニロッカーの設置を行いました。また、現場には必ず女性専用のトイレも設置することにしています。全員が快適に過ごせることが大切だと思います。

「社員の方々が能力を発揮できるような会社にしていきたい」と、笑顔で話してくださった鈴木さん。
とても社員思いであることが伝わってきた。
鈴木さんは、私たちからの質問に対し、ジェスチャーを交えながら分かりやすく答えてくれた。
2.取り組みに対しての現状・課題
 

環境整備に関する取り組みを進める中で直面している課題はありますか?

鈴木さん
様々な社員が別々の現場で働いているので、コミュニケーションが取りにくく、社員の要望が拾いづらいということです。皆が同じオフィスで働いていれば設備や環境なども整えやすいですよね。しかし弊社は社員の大半が現場職のため、全員が同じ場所で働くということがほぼありません。そういった中で、働きやすい環境整備をするということが難しいですね。

「ダイバーシティは目的ではなく手段」と話してくださった鈴木さん。
取材内で、新たな取り組みを行うと決断された。

 
 

その課題に対してどのように向き合っていますか?

鈴木さん
普段、離れていても社員同士のコミュニケーションが取れて、要望も聞けるような風通しの良い会社にするために、目安箱をネット上に設置しました。目安箱を設置したことで、いろいろな要望や課題が集約できるようになりました。労働環境を良くするためには、仕事を受注する段階から余裕のある工期を確保するなど、社員全員で協力し、努力していくことが求められると思います。
 
目安箱が設置されたことで、日々、感じたことや困っていることなどを発信できるようになり、社内のコミュニケーションが円滑に。

3.社員の声

 

社内で力を入れて取り組んでいることを教えてください。

市川さん 冨田さん
SNSを使った情報発信に力を入れています。以前はイベントがあった時だけ、総務部のメンバ―がX(旧Twitter)へ投稿をしていました。しかし、それだけでは会社の魅力や建設業の魅力をアピールするには弱いと感じたことが力を入れるようになった理由です。SNSチームを新たに発足し、今ではX(旧Twitter)への投稿は毎日欠かさず行っています。最近では、現場の職人さんからも「このような投稿が面白いのではないか」というアイデアが出てくることもあり、様々な情報を伝えることができています。普段見ることができない工事現場の魅力を発信することで、建設業に興味を持っていただける機会にしたいです。
 

今、働いている環境をどう感じていますか?

ポカレルさん
現在の業務として、3D図面の作成などを担当しています。 勤務するにあたり、上司や同僚が仕事に集中できる環境を整えてくれるなど、たくさんサポートをしてくれました。今でも本当に感謝しています。わからないときは、すぐに社員の方に質問できる環境があり、時には翻訳アプリを使ってコミュニケーションを取っています。コミュニケーション不足は、小さな誤解が生じる可能性があるので、翻訳アプリを使わなくてもコミュニケーションが取れるよう、日本語をもっとレベルアップしたいです。そして、エンジニアとして土木・建築の経験と知識を用いて、会社に貢献できたらいいなと思っています。
 

SNSで情報を発信した時、どのような反響がありましたか?

市川さん 冨田さん
InstagramやYouTubeでは、現場作業の一部を切り取った動画に多くの反響をいただきました。Xでは、地域の情報や整備工事の紹介を投稿した際に、完成した建物を利用したいと言った声や、作業現場を実際に見に行ったなど、好意的な反応をいただいています。弊社のSNS発信を見て、太陽光発電事業の収益金から青少年の未来を作る活動団体への助成金を支援する事業「おひさまの恵みプロジェクト」に参加したという方もいらっしゃいました。今後は、完成した工事の情報や災害状況など、公共性の高い情報を迅速に発信し、地域の皆様に役立ててもらえればと思っています。
 
Instagramに投稿された「おひさまの恵みプロジェクト」。SNSの活用は、支援の輪が広がるきっかけにもなっている。

4.今後の展望

 

労働環境をより良くしていくために、今後どのような活動を行っていきたいですか?

鈴木さん
一番は、時間外労働の削減ですね。建設業というのは工期絶対厳守という文化があるため、他の業種よりも難しいと感じています。転勤や他県での作業も多く、通勤の負担も大きいです。その中で、いかに時間外労働や全体の労働時間、通勤時間を減らし、社員の負担を軽減できるかは課題であり、向き合っていかなければならないことと感じています。まずは単身赴任者の負担軽減のため、帰宅手当の拡充などにも積極的に取り組みたいです。
 

今後、ダイバーシティ&インクルージョンにおいて会社全体で力を入れていきたいことはありますか?

鈴木さん
バリアフリーの推進には、力を入れていきたいと思っています。例えば、現在の事務所が築50年以上のため、社員はもちろん外部の方も利用しやすいように、玄関にスロープを設置したいです。また、事務所内の段差も極力なくしたり、エレベーターを最新化したりするなど、快適な環境にしていけたらと思います。今後は、様々な方が利用しやすい会社を目指していくと共に、建設業の魅力を発信することにも更に力を入れていきます。
 

自分の会社に誇りを持って熱く語っていただいた社員の皆様。
労働環境の整備は、社員の意欲向上につながっている。

建設業界が、我々の暮らしにどのように関わっているのかを図解したスライド。
鈴縫工業のような施工管理会社は、誰もが安心して暮らせる豊かな環境をつくり、人々の生活の基盤を支えている。

5.取材の中で生まれた質問

 

今後日本で働きたいと思っている外国籍の方へメッセージをお願いします。

ポカレルさん
自分のスキルに自信を持って、自分が入りたい会社についてよく調べて欲しいです。コミュニケーションの問題など不安に思うこともあると思います。しかし、会社内にはサポートしてくれる社員さんもいます。自分を信じて会社をより良くしようという思いを持って日本で働いてほしいです。日本で働くことで、第二言語である日本語を学ぶことができ、異文化理解も深まります。日本で働くことによって、自分自身の成長にもつながると思います。
 

将来経営者になるために、身に付けておいた方が良いスキルはありますか?

鈴木さん
一番大事なことは、自分の強みを見つけることですかね。経営者にはいろいろなタイプがいます。数字に強く税理士や公認会計士の資格を持っている人もいれば、技術者から叩き上げで経営者になる人もいます。自分の強みを見つけることは、経営をしていくうえでとても力になります。あとは、自分ができないことを、任せられる人を育てていくことが大切ですね。経験と能力を持った人に、近くにいていただいた方が会社にとってもいいと思いますしね。そういった組織をいかに作れるかが大事になってきますね。
 
経営者として必要なスキルを、とても分かりやすく説明していただいた。
日本で働くことにやりがいを感じると語っていたポカレルさん。
来栖 辰弥
(大学2年生)
昨年、大学の友人がこのプロジェクトに参加し、自分自身の成長につながると勧められたので、参加しました。将来は、起業を計画していますが、取材を通じて、鈴木社長から経営者としての心構えやD&Iについて多くのことを学ぶことができました。私も、社員がやりがいをもって働ける、社会貢献の意識が高い企業を作りたいと思います。
鈴木 梨央
(大学1年生)
大学内に掲示されていたポスターを見て、プロジェクトに参加しました。企業が積極的に多様性を受け入れる仕組みづくりに取り組んでいることなどを知り、今後、就職活動の際には、多様性の受け入れなど、D&Iに積極的に取り組んでいる企業を視野に入れて企業選びをしていきたいと思います。

 
平山 菜央
(大学4年生)
記事の執筆やリポーター業務に興味があったため、プロジェクトに参加しました。同じ取材チームのメンバーと、インタビューの練習やマナーについても学ぶことができて、充実した時間を過ごすことができました。取材後は、企業がどのようにダイバーシティに取り組んでいるのかを意識して見るようになりました。
 

 
 
 
関東道路社長のコメント 建設業を取り巻く課題は担い手の確保等をはじめ、とても多いのが現状です。地域の守り手、地域づくりの担い手としての役割を今後も継続的に果たしていくためには、働き方改革を推進し、多様な人材が安心して長く働ける環境をつくっていくことが、何よりも重要と考えて取り組んでいます。また、今回、若手社員からお伝えしたように、ブランディング強化を図るため、会社として SNSを積極的に活用し、社内外の皆様との双方向のコミュニケーションの向上に役立てていこうとしています。今回取材活動にご来社いただいた学生リポーターの皆さんには、これを機に是非当社や地域建設業の応援団になっていただき、普段は建設業に馴染みのない方々にも、その成果を広く発信していただくことを期待しています。
代表取締役社長 鈴木達二
 

令和6年3月5日公開