事例集 Ⅴ


<PDF版はこちら>事例集 株式会社ドロップ《16.9MB》
 
 
株式会社 ドロップ
株式会社
ドロップ
誰もが主役になれる職場へ
会 社 設 立 2015年
本社所在地 茨城県水戸市成沢町870-7
事 業 概 要 美容トマトの生産・加工・販売
資 本 金 300万円
社 員 数 33人
H    P https://www.dropfarm.jp/

 
 
取材登場人物
代表取締役
三浦 綾佳 さん
作業場スタッフ
海東 なおみ さん

取り組み内容
障害者雇用

県内の就労支援施設と連携し、主に精神障害のある方に除草作業やラベル貼りの仕事を依頼している。工賃の向上に努めており、時給ではなく他の従業員と同じように完成品に対して工賃を支払っている。

労働環境整備

従業員が120%の実力を発揮できるようにチーム制を取り入れている。各セクションごとにリーダーを決め、リーダーと専属パートでチームを組む。全従業員の事情をヒアリングした上でチームを決めるため、たとえチームメンバーの誰かが1週間休んだとしても、会社が回るような体制を整えている。フレックスタイム制の導入により、労働時間の自由化がなされ、子育て中のママを中心に働きやすい職場になっている。
 
 
取り組みを始めたきっかけと経緯
 
クエスチョン子育て中の女性が多数活躍しているのはなぜですか?
三浦さん
自分が働きやすい環境を整えた結果、子育て中のママたちが働きやすいと感じる職場になったというだけなんです。私は25歳で出産と同時に社長になりました。だから子育てと仕事の両立の困難さは、身を持って分かっています。そして、そのことをSNSでも発信しています。情報を発信することで、私の考えに共感した人が働きたいと応募してきます。それが子育て中のママたちでした。


クエスチョン子育て中は休みを取る機会が多いと思いますが、それに関する対策は
   どのようなものでしょうか?

三浦さん
チーム制の導入と、必要な人員の2倍の人数を雇うことで対策しています。現在、パートさんの人数は24人ですが、フルで働いていると換算すると、実は稼働している人数は半分くらいです。さらにチーム制を導入しているので、例えば1歳の子どもがいるママさんと組む人は子育てを終えた50代の人、というように穴埋めできる組み方をしています。2倍の人員がいることで、休みたい人が気兼ねなく休める職場をつくることができました。


クエスチョン労働環境整備で最も力を入れていることは何ですか?
三浦さん
会社のソフト面の仕組みづくりですね。設備面はお金さえあればできちゃいますよね。そこで、制度面に柔軟性を持たせることが重要になっていきます。私たちの会社はチーム制で、かつフレックスタイム制を導入しているので、チームが機能するなら労働時間も自由です。他にも柔軟性という観点から考えれば、働く人同士のコミュニケーションも大切で、社員とパートさんは交換日誌でやり取りしています。DXは進めつつも、コミュニケーションについては、デジタルが苦手な人にも寄り添っています。
 
給与明細はあえてアナログだそう。
三浦さんが毎月の給与明細にフィードバックを書き入れることで、
働いている人たちに気持ちが伝わるようにしているという。

 
 
取り組みに対しての現状・課題

 
クエスチョン障害者雇用ではどのような取り組みをしていますか?
三浦さん
私たちは障害のある社員を直接雇うのではなく、就労支援施設との契約によって間接的に雇っています。直接雇用だと、私たちが障害のある社員をすべて理解できているというわけではないため、何気ない一言で傷つけてしまうというリスクが大きいんです。私は障害の有無に関わらず全ての従業員を同じような条件で雇いたいと考えています。どうすれば従業員を同じ条件で雇えるのか。その答えが、完成品に対する評価でした。


クエスチョン完成品での評価とは、具体的にはどのようなものですか?
三浦さん
除草作業などの現場作業が難しい方には、トマトパックのシール貼り作業をしてもらっています。時間単位の評価だと作業の速さが違うので、障害のある社員を同じ条件で雇う事が難しいです。しかし、完成品に対する評価に変えることで、平等に評価が出来るんです。作業に時間はかかるかもしれないけれど、どの社員が作業しても完成品が同じ物であれば同じ金額で評価されるべき。それは障害のある社員にとって生きがいにもなると思うし、この方法が広まれば、結果的に工賃の上昇にも繋がります。


クエスチョン障害者雇用に関する課題はどのようなものがありますか?
三浦さん
『工賃の低さが問題である』という認識が浸透していないことですかね。雇う側の企業だけでなく、福祉業界ですら認識していない所が多いです。福祉業界が問題意識を高めていって、企業と共に成長していかなければ、障害のある社員が仕事を失ってしまいかねないんです。

 
自分たちが障害のある社員に、仕事において何を求めているのかを明確にすることが、
障害のある社員の生きがいや自立につながると三浦さんは語る。

 
 
社員の声

 
クエスチョンこの会社の働きやすさはどうですか?
海東さん
とても働きやすいです。前職のときは独身で、自分だけの時間だったこともあり、一日中仕事をしていても普通だと思っていました。でも結婚して家族ができると、子育てや家のことをする必要があったので、長時間働くのは厳しかったです。しかしここではフレックス制によって自分の働きたい時間帯に働けたり、LINEで気軽にやりとりができるので意見が言いやすかったりと、とても働きやすいです。


クエスチョン働き始めた頃と今の働き方について教えてください。
海東さん
8年前に働き始めて、その頃は朝の9時から夕方の4時までフルタイムで働いていました。今は家族のこともあって、フルタイムで働くことが難しくなったので、午前だけとか午後だけとか、短い時間になってしまったのですが、労働時間を融通してもらって働いています。

クエスチョン最後にこの会社の魅力について教えてください。
海東さん
私の場合は、自分の働きたい時間に働いて、自分の帰りたい時間に帰れるというところが一番の魅力です。自分の時間ができたことで子供の学校行事に気兼ねなく参加することができたり、家族との時間が増えたりと、とても充実した日々を送ることができています。
 
  
 
 
今後の展望

 
クエスチョン今後挑戦したいことは何ですか?
三浦さん
念願の販売所を2022年の3月に開設し、私がやりたいことは基本的に実現しました。次は“一緒に働いてきた仲間が主役になれる場所”をつくるために、人的資本経営に力を入れたいと考えています。これからも、ビジネスとしてはトマトが主役であることは変わりませんが、スタッフが主役になれる場所を社内につくる取り組みです。また、スタッフが主役になれる場所が社外にあるなら、どんどん送り出してあげたい。それによってまた新しい人的資本が入ってくるので、そのスタッフをどうプロデュースしていこうかという所にワクワク感を見いだしています。そういう意味で、新陳代謝の良い会社でありたいなと思っています。


クエスチョンスタッフが主役になれる場所とは、例えばどのようなものがありますか?
三浦さん
ここで働きながらヨガ講師の資格を取って、会社の敷地内で教室をやっていたスタッフがいましたが、インドにヨガ留学することになりました。その時、なんのわだかまりもなく「行っておいで」と言えました。会社に必要な人材ではありましたが、スタッフを主役として捉えられていたからこそ、送り出すことができたのだと思っています。
 

2022年3月にできた直売所。
横には24時間営業のトマトの自販機も併設している。

 
 
取材の中で生まれた質問

 
クエスチョンダイバーシティの観点から、採用基準を教えてください。
三浦さん
学歴や資格、年齢、性別などは一切指定していません。幅広い人に来てほしいという思いがあって、その人に当てはまる仕事、ポジションってどこなんだろうなという考え方をしているんです。だから採用基準はなく、むしろその人をどう生かせるかという感じです。他には人間性が豊かかどうか。一緒に会社を盛り上げてくれそうかというところを見ています。


クエスチョンこれから社会人になる学生に対して求めるものは何ですか?
三浦さん
ビジネスマナーを身につけるという基本的なことだけではなく、学生のうちに様々な社会経験を積み、色々なことを吸収できるような器を持つことを求めます。これから成長していく企業と一緒に、様々なことを吸収しながらついていけるかどうか。業種によって必要なスキルは違いますが、そういうものは入社してから身につけても遅くないと思っています。それよりも、会社が与えるスキルをしっかり受け止める器が、スタッフ自身にあるかどうかが大事だと思っています。

  

 
取材風景
最初はスライドを使用した会社概要の説明をしてくださいました。社長として活躍していらっしゃる三浦さんのお話に私たちも聞き入りました。従業員さんへのインタビュー時には、フレックスタイム制により従業員さんがほとんど帰ってしまい見つからない、というアクシデントも。直売所に入るとすぐインパクトの強い真っ赤なオブジェが迎え入れてくれました。直売所ではおすすめの商品やトマトの魅力についてのお話をしてくださいました。最初から最後まで笑顔で対応してくださり、とても話しやすくて楽しい取材になりました。
 

お話を伺ったのは、トマトジュース工場内にあるお部屋
直売所の中で存在感のある赤いオブジェ


 
取材を終えて


学生リポーター
松橋 杏里

 
人的資本経営のお話を聞く中で「一緒に働いてきた仲間が主役になれる場所をつくりたい」という言葉が印象に残りました。三浦さんの前向きな姿勢に尊敬の念を抱くとともに、ダイバーシティについて、より一層学びを深めていきたいと考えました。


学生リポーター
栗山 汰士
とても貴重な経験をさせていただきました。障害者雇用の考え方など、勉強になることばかりでした。ダイバーシティはまだ広く知られていません。三浦さんから学ばせていただいたことを忘れず、自分がダイバーシティを広められるようになりたいと思います。


 
企業側からのコメント まずは取材、お疲れ様でした。ダイバーシティという、一見とっつきにくく感じてしまうテーマを、きちんと考え方を理解し、自分なりの解釈を持った上で取材に来てくれた印象が強く、弊社としても良い機会となりました。何事も、「見えづらい」から取り組めない、どうしたらよいのかが分からないというのが実態だと思います。自分の感覚を相手に押しつけず、自分と相手はどのような点で異なるのか、理解しようとすることが、ダイバーシティの第一歩だと思います。誰に対しても、目の前の人を理解する努力を忘れずに、人との関わりを忘れずに、取材をしてくれた2人には、積極的に社会で活躍してほしいなと思います。この度は貴重な機会をいただきありがとうございました。
代表取締役 三浦 綾佳  

令和5年2月22日公開