事例集 Ⅰ

 
<PDF版はこちら>事例集 株式会社石崎製作所《18.0MB》
 
 
株式会社
石崎製作所
個々の強みを生かし、全員が戦力となれる職場へ
会社設立 1961年 ダイバーシティ項目 女性活躍推進
本社所在地 東京都台東区今戸1丁目5番19号
(事業所所在地)茨城県小美玉市部室前1199-12
事業概要 建築金物関連部品製造、住宅設備関連部品製造、部品アッセンブリー
資本金 1000万円
社員数 29人
HP http://www.ishizaki-ss.com

 
 
取材登場人物

代表取締役
石崎 一徳 さん

従業員
S.R さん

従業員
S.H さん
取り組み内容
女性従業員のキャリア形成と仕事と家庭の両立支援

企業存続のため人事戦略として女性パート従業員(以下パート)の雇用拡大を図ったことがきっかけ。パート定着のため、有給休暇の消化率の向上や、急な休みや早退をみんなでカバーする社風づくりなどの両立支援体制や制度の整備を始めた。
キャリアアップ制度により、パートが社員に昇格する事例も4例。
約1年ほど前から、パートの活躍を会社をあげて推進する動きへとシフトしており、脱扶養内の働き方への不安払拭を目的として毎月女性社労士を交えた相談会を実施している。業務能力だけでなく、従業員に会社全体を良くする役割を持たせることによって従業員の士気を高めている。
 

 
取り組みを始めたきっかけと経緯
 
クエスチョン取り組みを始めたきっかけについて教えてください。
石崎さん
約10年前、東日本大震災や取引先の倒産により売り上げが低迷していたため、平均人件費を下げるためにパートの雇用を増やしたことがきっかけです。それまで熟練工員がやっていた作業を、技術や知識が必要な作業と比較的単純な作業に分け、単純作業をパートに任せることにしました。その結果、人件費削減、仕事の効率化を図ることができました。


クエスチョンパート雇用を拡大した後、取り組んだことはありますか?
石崎さん
パートの定着のために仕事と生活の両立支援を行い、キャリア形成支援の仕組みづくりに取り組みました。パートの大半が子育て世代なので、育児休暇の取得率や有給休暇の消化率向上、急な休みをみんなでカバーする社風づくりに努めました。具体的には家庭の事情で欠勤や早退をする時に、謝るのではなく感謝の言葉を伝え「行ってきます」と言うルールを作りました。


クエスチョンキャリア形成支援の第一歩として何をしましたか?
石崎さん
準社員を作りました。当社の準社員とは短時間労働の社員のような感じです。キャリアアップに意欲的だった女性に担ってもらいました。工場の業務に加えて、パートミーティング開催の準備を行ったり、休憩時間などの何気ない会話から出てくる課題を把握したりするなど、パートの統括のような役割です。 
 
パートと正社員の役割を図式化しながら説明してくれた石崎さん。
徐々にスキルを伸ばしていき、準社員、正社員にステップアップしていけるようになっているそうだ。

 

 
取り組みに対しての現状・課題

 
クエスチョン取り組みを行ったことで印象的な変化はありますか?
石崎さん
子育てとの両立支援やキャリアアップ制度によりフルタイム勤務が可能なパートが社員に昇格する実績が4例出せたことです。その反面、必要以上の活躍を求めない人や扶養内の働き方を強く希望する人も出てきて、二極化していた時期もありました。ですので、社員・準社員との連携を密にすることや、パートアンケートを実施し、試行錯誤しながら課題を解決しています。約1年程前から女性が活躍しやすい環境づくりから真の意味で女性の活躍を推進する動きへとシフトチェンジしました。


クエスチョン直面した課題に対してどのように向き合っていますか?
石崎さん
脱扶養に向けて活躍のフローを共有していくことができたとしても、中にはフルタイムで働くときは当社ではなく別の業界での活躍を考えている人もいます。そのような場合はみんなに共有し、会社内で次のステージでの活躍に向けてスキルを生かした活動を行ってもらっています。これは個人の成長が会社の成長につながると考えてのことです。また、従業員同士の横のつながりを強くするためにも必要だと思います。


クエスチョン現在、力を入れている女性活躍推進活動を教えてください。
石崎さん
全女性従業員を対象としたパートミーティングの開催です。第三者として社労士に入ってもらいながら労働人口減少による女性活躍の意義、脱扶養のメリット・デメリット、活躍とは具体的に何を指すかなどを、ミーティングを通じてパートに伝えていく活動に力を入れています。自分の職域を広げることで労働価値があがること、またその価値をあげるには具体的に何をすればよいかを伝えることで、脱扶養内の働き方への不安払拭や女性活躍の必要性を理解してもらうという目的があります。

 
工場内の作業風景。力が必要ない小さな機械を使用することで作業しやすい環境づくりをしている。
 
 
 
社員の声

 
クエスチョン会社の取り組みに対して、社員さんの中でどのような変化がありましたか?
S.Rさん
意欲を持ちながら仕事ができるようになりました。パートであっても活躍していかなければいけないんだ、頑張り次第でキャリアアップもできるんだという意識がみんなに根付いてきたように感じますね。10年くらい前から働いていますが、最初の頃と比べて働く環境や制度も変わってきました。会社が推進する、パートが活躍していくための取り組みに対して、一部では抵抗感もあったと思います。今の自分たちにできるのかなとマイナスなイメージを持つ人もいました。それでも、ここ1年で、社労士の先生とパートさんたちでミーティングを重ねてきて、自分のスキルをあげていこうという前向きな意識がしっかりと生まれてきました。職域の幅を広げることは、決してハードルが高いことではないと学んだことで、今は皆さん自信がついてきたように感じます。


クエスチョン職場の魅力を教えてください。
S.Rさん
世代の差を気にせずいられて、アットホームなところです。うちの職場は、20代から60代と幅広い世代のメンバーがいます。子どもの体調不良などで休むときも他の皆さんがフォローしてくれて、気まずい思いをすることがないんです。すみませんって言っちゃダメなんですよ。行ってきますって言うんです。謝る必要がないって言ってくれるのが一番嬉しいですよね。とてもいい職場だと思っています。
 

左から、S.Rさん、S.Hさん。
インタビューに答えてくれたのはS.Rさん。
工場内や会社の取り組みについて話してくれたのはS.Hさん。
S.Hさんは石崎製作所を紹介する動画を作り、TikTokで会社を広める活動をしているそうだ。

 
 
今後の展望

 
クエスチョン特技を生かした活動について詳しく教えてください。
石崎さん
従業員から聞いた特技を何らかの形で社内でも生かすようにしています。例えば、栄養士の資格を持っている従業員が、食事や風邪対策などの健康に関する新聞を作り掲示することで、みんなの健康維持に貢献してくれています。他にも、DIYが得意な従業員が食堂をリノベーションしてくれたり、SNSが得意な従業員が、当社をTikTokで発信する活動をしたりしています。従業員それぞれが持つ強みを社内で生かす活動を行っています。


クエスチョン会社独自で行っているKIS活動とは何ですか?
石崎さん
当社ではバリューアップの一環としてKIS活動というものを行っています。KISとは、当社のロゴ(K:株式会社、I:石崎、S:製作所)をK(感謝)、I(労り)、S(称賛)となぞったものです。普段同じ職場で働く人に対して、なかなか言えない感謝の気持ちなどを無記名で書いて箱に入れ、ボードに掲示しています。いつでも見られるようにすることで、従業員のモチベーションアップにつながっています。


クエスチョン今後の展望について聞かせてください。
石崎さん
「やらせる」「やってもらう」のようにならない、バランスの良い関係を築いていければと思っています。パート・正社員関係なく従業員全員が「がんばらなければいけない」という意識を持てる会社にしていきたいです。そのために2022年12月現在、評価方法や表彰内容など、従業員が活躍した後の評価のされ方について最後の詰めを行っています。
他には、くるみん(「子育てサポート企業」としての認定)の取得を目指しているのですが、男性の育休取得の対象者がおらず条件を満たせていないので、その点をどうにかしていきたいですね。
 

イラストを特技とするパートさんが作成したKIS活動の掲示板。
この方は石崎製作所のLINEスタンプも作成したそうだ。

 
 
取材の中で生まれた質問
 
クエスチョン社会人になる前に身に付けておくべきことはありますか?
石崎さん
社会人基礎力と自己分析力です。社会人基礎力とは経済産業省が2006年に提唱していて「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力から構成されています。この能力は当社でも従業員の評価の対象にしています。また、自己分析力については、自分の強みを理解して落とし込むことがその力の一つであると考えています。そのため、私は従業員に対して必ず特技を聞くようにしています。


クエスチョン働く上での学生と社会人の違いは何ですか?
石崎さん
社会人になると、就職する会社によってはこれまでの常識が覆ることがあります。例えば、何か物を買うとき「まとめて買った方がお得である」という常識があるはずです。しかし、製造業にとっては一度にたくさん物を作ることがお得というわけではありません。必要以上の在庫を置くことにより、管理費など余分なコストが生まれることがあります。今自分が当たり前だと思っている常識が社会に出たときに正しいとは限らないということを学生には知っておいてほしいです。


クエスチョン新社会人に求めることを教えてください。
石崎さん
学び続けることです。大人ってね、学生じゃなくなると学ぶことをやめてしまうんですよ。どの業界でも生きていくには学ぶことをやめてしまってはいけないんです。だから、学ぶことを忘れない姿勢を持っていてほしいです。先程の質問の答えと通ずるものがありますが、学び続けることによって「その業界の常識」をつかむ人であってほしいと考えます。
 

 

 
取材風景
株式会社石崎製作所さんへの取材は約2時間行いました。まず、石崎さんから、会社概要、ダイバーシティへの考え方や取り組みの内容、石崎さんが考える会社の成長と目標の立て方などを約1時間半かけてお話しいただきました。その後は、従業員さんへの取材と工場見学をさせていただきました。石崎さんからはダイバーシティの考え方と会社経営のつながり、会社を変化させる大変さなどを教えていただきました。また、従業員さんのインタビューでは工場内での仕事内容や個人の特技を生かした活動の紹介をしていただき、より具体的な取り組みや会社の雰囲気を感じることができました。今回の活動を通して、ダイバーシティへの取り組みは社会を良くするためだけでなく、会社自身が成長していける一つの手段としても考えられるということを学びました。
学生が取材している様子の画像
 
工場見学では実際に作業工程も見せていただき、リアルに仕事風景を感じられた。
これまでは2、3カ月に1度従業員同士のコミュニケーションの場としてお花見などをしていたが、
コロナ禍のため現在はスイーツを取り寄せ、リフレッシュしているそうだ。
従業員同士での仲の良い関係性が見えた。


 
取材を終えて

学生リポーター 泉さん
学生リポーター
小野 葵

 
取材時は主にカメラマンを担当させていただきましたが、実際にダイバーシティへの取り組みを行っている会社の方から話を聞くことができました。リアルな視点から取り組みや課題について考える機会をいただき本当に良い経験ができたと思っています。女性のため、社会のための取り組みであると同時に、会社のさらなる発展のためにもなるというお話から、取り組む側にも大きなメリットがあるんだなという発見がありました。今回のD&Iの企業側の視点はもちろん、社会人に向けてのお話も今後の自身の成長に生かしていきたいと思います。

学生リポーター 松岡さん
学生リポーター
幅岸 海晴
 
私は将来起業しようと考えています。経営者目線でのダイバーシティや、一つ一つのアクションに対する考え方など身になることがたくさんありました。一番感じたことは全ての行動は会社を良い方向に導くための行動なんだなということです。今回の活動を通して得たD&Iの考え方をはじめ、多角的な視野などを今後の活動に生かしていきたいです。


 
企業側からのコメント このたび女性活躍推進取組事例として取り上げていただきましたが、きっかけはあくまでも生き残りをかけた人事戦略でありました。しかしながらその取り組みの一つ一つが個々の能力を最大限引き出すことを目的としており、その結果企業の価値の向上につながっていることは事実でありD&Iの考え方に当たる部分もあるのではないかと思いエントリーした次第です。特にここ一年の取り組みは「活躍の必要性」を理解してもらい、「どう活躍するか」を話し合い「評価と報酬」までを段階的に共有することができたことは大きな収穫でした。そして何よりもどんなテーマであれ、自社が取り上げられることは従業員のモチベーションを高める事になるので、この機会には非常に感謝しております。最後になりますが我々中小企業が何か取り組みを行う際、大抵の場合、国や自治体から補助金、助成金、奨励金等の形で支援事業があります。当社も今回の取り組みを通じて色々お世話になりましたのでこの場を借りて御礼申し上げます。
                                            代表取締役 石崎 一徳  
 
令和5年2月22日公開