事例集Ⅴ


<PDF版はこちら>事例集 株式会社ライフサポート山野《3.2MB》
 
 


株式会社
ライフサポート
山野
ライフサポート山野
ダイバーシティ取組項目
多様な人材活用
介護業界を世界から選ばれる魅力あふれる職種に
会社設立 2012年
本社所在地 茨城県水戸市笠原町645-1
事業概要 短期入所生活介護、訪問介護、居住介護支援
サービス付高齢者向け住宅、登録支援機関
資本金 100万円
社員数 35人
HP http://ls-yamano.jp
 
 
取材登場人物
代表取締役
山野 英治 さん
事務職
グエン ティ アン(アン) さん
(ベトナム出身)
介護職
ボレス アナフェ マンシェ(アナ)さん
(フィリピン出身)
看護師
吉野 千枝子 さん
取組内容
◉多様な人材活用
少子高齢化により介護業界へのニーズが高まる中、国籍や年齢など、個人の一部の側面にこだわらず、多様な人材活用を積極的に行っている。広く人材確保を行うため、技能実習生や特定技能実習生、シニア世代の雇用も行い、誰もが安心して働ける環境づくりに務めている。
さらに、副業人材を活用し、外部からの視点やアドバイスを業務の効率化や経営に取り入れるようにしている。
 
 
 

1.取り組みを始めたきっかけと経緯

 
多様な人材の活用を進めようと考えたきっかけを教えてください。
山野さん
一番の理由は、この業界の人手不足に大きな危機感を感じていたからです。社会的に少子高齢化が進んでいて、介護業界へのニーズが高まる一方で、業務負担への不安などから、選ばれない職種になってしまっているんですよね。優秀な人材を採用するのが非常に難しくなっているのが現状です。この状況を改善するには、多様な人材の登用と、専門的(システム関連・資金調達等)な知見を持った副業人材の活用など業務の効率化が必要だと考えました。
 
「最初からダイバーシティを意識していたわけではありませんでした。
いろいろな人を採用するなかで、結果的にダイバーシティにつながりました」と語られた山野さん。

ライフサポート山野では、外国籍人材のインターンシップ受け入れを積極的に進めている。 

取り組みは、どのように進めていきましたか?

山野さん
コロナ禍の前から、介護業界の人材不足は課題になっており、経営者として様々な対策の検討を行ってきました。その中の一つが、外国籍人材の採用でした。2019年にインドネシアを訪問し、技能実習生の受け入れを検討し始めました。介護施設なので、まずは介護職員の雇用を考えると思いますが、最初に経理事務の職員を雇いました。私自身が経理事務の職員と一緒に働く中で、コミュニケーションをとりながら受入体制を整えていく必要があると考えたからです。多様な人材を受け入れる環境を整えるには、やはり時間がかかりますが、私はあえて時間をかけました。介護現場に外国籍人材を受け入れた時に、「やはり受け入れは難しいんだ」と思ってもらいたくなかったからです。一度生まれた抵抗感を払拭するのは難しいですしね。
 
2.取り組みに対しての現状・課題

外国籍人材の採用を進めてどんなところが良かったですか?

山野さん
当初の目的である、人材確保ができましたし、それ以上に、社内環境を大きく変えることができたのが良かったです。多くの優秀な外国籍社員と一緒に働くことで、会社の中に仲間を支えて共に成長する環境が整えられつつあります。外国籍社員は、家族のために一生懸命働こうとする非常に真面目な方が多く、会社として彼らに助けられている部分も大きいです。外国に目を向けることは、小さな会社でも意欲的で優秀な人材と巡り会うことができるチャンスだと思っています。
 

外国籍人材の受け入れを進めたことで、新たに生まれた課題はありますか?

山野さん
育成が課題です。彼らには生活面はもちろん、日本語の指導など、プラスアルファの支援も必要です。国籍に関わらず、だれでも働ける職場にしたいという思いを強く持ち、支援を行っています。外国籍人材を仲間として受け入れることで、徐々に社内に人材育成を行う潮流も起きてきています。教えることで、メンター側の人材の成長にもつながり、共に育つ環境が整えられると思います。
 
 

シニア人材の方と働く良さについて教えてください。

山野さん
シニア人材は介護業界を支えてくれる存在です。シニア世代の方が現役として活躍できる環境があると、少子高齢化に伴う働き手の減少や介護業界のニーズの増加に対応していくことができると思っています。
 
 

シニア人材の受け入れを進めたことで、新たに生まれた課題はありますか?

山野さん
働きやすい環境をどのようにつくることができるかが課題です。身体の不調によって昔のようには働けないということもあり、働き方や雇用形態も柔軟に対応していく必要があります。チャレンジしやすい環境をつくっていくことで、仕事が居場所ややりがいにつながっていくと考えています。

「少子高齢化は今はネガティブなイメージがありますが、環境次第でポジティブに明るく変わるのではないか」と語られた山野さん。

 

3.社員の声

 

現在の業務内容と、日本での生活をどのように感じていますか?

アナさん
私は、入居者の方々の食事や入浴の準備などの業務を行っています。皆さんの笑顔を見られることがやりがいの一つですね。フィリピン出身のため、日本の物価が高いとは感じますが、快適に暮らしています。家族は、夫と娘が1人いるのですが、子育てと仕事の両立もできています。初めは言葉の壁があり大変でしたが、たくさん日本語を勉強する中で克服してきました。これからも、日本語の勉強を頑張るつもりです。

アンさん
私は、請求業務や外国籍スタッフの書類申請のサポートなど、主に事務を担当しています。特に外国籍スタッフをサポートすることに興味があるため、この仕事にとてもやりがいを感じます。私は以前から日本の習慣や文化が好きですし、日本に長くいたいと考えています。これからの目標は、ライフサポート山野のスタッフとして新事業を始めることです。地域の外国人と日本人のコミュニティーを増やすことを目的とした新しい事業にチャレンジできればと思っています。
 
 

シニア人材として、日々、仕事をする上でのやりがいや課題に感じる点は何ですか?

吉野さん
誰かに頼ってもらえているということにやりがいを感じています。私は入居者の方々と年齢が近いこともあり、寄り添える部分は多いと思っています。あなたがいてよかったと言っていただけることがうれしいです。逆に私が働く上での課題は、今後、どのようにして身体の状態を健康に維持していくかです。去年、私は手術をしたのですが、その際、思いやりのある言葉を職場の方々から掛けていただいたおかげで、今日までやってこられました。この職場では、年の差があっても疎外感を感じることなく働けています。
 
 
外国籍スタッフのアンさん(左)とアナさん(右)が言葉に詰まったとき、
シニアスタッフの吉野さん(中央)がサポートしてインタビューに答えてくれた。

 
 

4.今後の展望

 

多様な人材を受け入れるために、今後、取り組んでいきたいことについて教えてください。

山野さん
外国籍人材を受け入れる上では、当然、地域でも受入体制が整っている必要があります。街で外国の方が歩いていると、今でも「あっ、外国の方がいる」と思ってしまう世の中だと思います。だからまずは外国人と日本人が集まれるイベントなどを通して、国籍を超えたコミュニティーを作り、その存在を知ってもらいたいです。外国の方が地域にいることが当たり前の環境をつくっていきたいです。
 

多様な人材を受け入れることで、期待したいことはありますか?

山野さん
多様な人々と出会うことによって、新しいチャンスが生まれるといいなと思います。昨年度から副業人材を活用して、ウェブサイト制作や資金調達の業務をお願いしているのですが、できないことを誰かに頼む方が効率的だと思いますし、私たちとは違う視点からアドバイスをもらうこともできます。専門性の高い仕事を副業という形でお願いすることで、新たな出会いをいただいたり、チャンスをいただけていると思っています。
 

今後、あらたにチャレンジしたいD&Iの取り組みについて教えてください。

山野さん
いろいろとチャレンジしていきたいことはありますが、農福連携に関心があります。野菜を作るのは地道な作業ではありますが、だんだんと成長し形になって収穫をした際の喜びは、日々のやりがいにもつながると思います。施設内で野菜を作ったり、最終的には販売をしたりして、シニアの方々が社会と関わるきっかけをつくれたらと思います。
ライフサポート山野には施設のマスコット的なヤギがいる。
ヤギの名前はルマンド。施設の利用者、近所の子ども達から親しまれている。
人懐こい性格のルマンドは暖かい時期には庭で利用者と一緒に過ごすこともあるそうだ。
 

 

5.取材の中で生まれた質問

 

3.社員の声ページで話されていた新事業について、詳しく教えてもらえますか?

アンさん
取り組みを予定しているのは、外国人と日本人との交流を深める事業です。事業は、3段階で進めていく予定です。第1段階は事業の認知度を上げ人を集めることです。具体策としては、多文化交流のイベントを開催します。登録支援機関*1の認可を受けていますので、特定技能の外国人の支援などを予定しています。第2段階では、物販や情報サイトの立ち上げを行う予定です。この物販では入居者の方にも参加いただき、交流を深めてもらいたいなと考えています。そして最後は、実際に常設の交流スペースを作りたいと考えています。外国人に日本で幸せに暮らしてもらえるよう、この事業の輪を広げていきたいと考えています。

*1:特定技能外国人受入企業から委託を受けて特定技能外国人の支援計画を作成し、サポートを行う機関のこと。
 

 

多文化交流会のイベントについて語るアンさん。
子どもに向けた読み聞かせやゲームなどを行い、子ども達の笑顔を見ることができたそうだ。
今後も続けていきたいと語っていた。

 


 

年齢を重ねても、働きたいというモチベーションを保つことができている理由は何ですか?

吉野さん
社会や人と関わりたいと思うからです。私の他にも、2人の看護師が在籍していますが、育児中で時短での勤務となるため、14時に退勤となります。介護施設では、常に看護師が必要とされているため、私は週に5日、フルタイムで働いています。休日には自分の好きなことをやっていますが、もっと違う夢中になれることを見つけられたらなと思っています。その夢中になれる何かを見つけるまでの時間を、働きながら過ごしていきたいです。
 


 
今 麻那
(大学2年生)
就職活動に向けて、何かに取り組んでみたいと思い、いろいろな事業を調べていたところ、このプロジェクトを知り、参加しました。D&Iの理解が深まったことはもちろん、企業の方のお話をいろいろと聞けたことで、「働くこと」への印象が変わりました。社会や人とのつながりを大切にしながら、生活していけたらいいなと思います。
谷口 瑞輝
(大学2年生)
以前から新聞部や大学の広報に参加したり、取材・執筆したりすることに興味があったことと、大学入学を機に茨城に来たため茨城県の企業について知りたいと思い、参加しました。企業の方へのインタビューを通じて、どのような思いを持ってお話をされているのかなど、その人の立場に立ってしっかりと考えながら聞く力が身に付いた気がします。
成田 桃衣
(大学2年生)
世の中に多様性を尊重する動きが広がりを見せる中、自分自身が多様性の本質について学ぶきっかけになるのではと思い、プロジェクトに参加しました。取材を通じて、多様性を尊重することにより、企業や業界の可能性が広がると同時に、新たに向き合わなければならない問題の存在にも気付くことができるという発見がありました。

 
 
 
関東道路社長のコメント 最初は、人材不足の対応として取り組んできた外国籍人材の採用やシニア人材の雇用でした。それが、徐々に労働力確保だけではなく多様な人と働ける環境の整備につながっていきました。人材確保に注力していた時期は、確保することが目的となってしまい人材育成まで出来ていないことが多くありましたが、現在は、多様な人を採用するようになり、優秀な人材と出会える可能性が増えてきています。おかげで社内での人材育成環境が整うようになってきました。人を育てると共に、指導側の人材も共に育つ環境ができ、人を育てられる人材の育成も出来るようになっています。ダイバーシティ推進は、単なる人材獲得の手段ではなく、企業変革の一歩でもありました。
代表取締役 山野英治
 
令和6年3月5日公開