多様性が生む力~ビジネスにおけるダイバーシティ~

ダイバーシティ経営の強みとは⁉ モデル企業のその後の取り組みについて伺いました。
2023年度紹介内容はこちらhttps://www.diversity-ibaraki.jp/dandi/04.html

 
 日東電気グループ D&I推進モデル企業      
多様な人材から生まれたイノベーション 技術革新と生産性向上への道
左から 代表取締役社長 阿部さん、エンジニア タンさん、エンジニア リフキさん、第一製造部 部長 先崎さん
■会社設立 1951年
■本社所在地 茨城県東茨城郡茨城町長岡3268 
■事業概要 アルミダイカスト製品の鋳造・加工・組立、プラスチック成形、FRP成形、電子部品およびプリント基板の組立、金型製作
■従業員数 310人    (国内グループ合計)
■HP https://www.nittocorp.co.jp
 
───この度、いばらきダイバーシティ宣言の更新や、ダイバーシティスコアチャレンジの2回目のチェックを行ってくださいました。改めてダイバーシティ推進への思いをお聞かせください。
      
阿部社長 
弊社の場合、特にダイバーシティを意識して取り組んできたわけではありませんでした。性別や国籍に関係なく、幅広く人材を採用した結果、自然とダイバーシティの視点になっていました。振り返ると、私たちの取り組みは、時代の変化に対して必要不可欠だったと思っています。
今回、改めて「いばらきダイバーシティ宣言」を行って、もう一度「いばらきダイバーシティスコアチェック」をやってみました。その結果、会社としてさらに先へ進めるのではないかと思いました。
ものづくりの現場では、本当に人が足りていません。もっと多くの女性やシニアの方にも働いてもらいたいと思っていますし、外国籍の方についても、特別視することはなく、働きたい方がいれば、国籍に関係なく弊社に来てもらいたいと思っています。現在は、一般作業者から、知識や技能を有している高度人材まで、ベトナムやインドネシア、インドなど、いろいろな国の方たち、まさに多様な人材と共に仕事をしています。


 
人材を求めて様々な取り組みを行ってきた結果、
自然とダイバーシティの視点を取り入れていました。
───多様な人材が働くことで影響はありましたか。

阿部社長
現場の意識が変わってきたと思います。
弊社の現場は、自動車部品等を作っており、「男性」「力仕事」などのイメージがありましたが、現場と相談して、女性の技能実習生を4人同時に採用しました。彼女たちを現場で受け入れることで、作業環境を良くするために、作業場を綺麗にするとか、重い物を持たずに仕事ができるようにしようと考えるようになりました。
外国籍の方を採用し始めた頃は、「言葉が通じないのでは」という声が聞かれ、心配をかけましたが、採用を重ねていく中で、国籍や性別に関係なく、仕事を覚えたい気持ちや挑戦する意欲が何よりも大切なのだと気付くことができました。

先崎部長
外国籍人材を採用し始めた頃は、コミュニケーションの面で苦労しました。
私たちの現場は、いわゆる「3K」で、「きつい・汚い・危険」と言われます。危険に関しては特に気を付け、対策をしています。「危ない」「止まれ」という言葉は最優先で覚えてもらいました。他にも、スマートフォンで日本語を外国語に変換するアプリケーションがあるので、それを上手く利用したり、母国語で注意喚起の表示を貼り出したりしています。今では、だいぶコミュニケーションがとれるようになりました。

 
 
───力仕事の面ではどのような工夫がありましたか。
金型から出てきたアルミは熱いですが、以前より軽くなり、
力まずに作業できています。

先崎部長
新しいスタッフが入ってから、作業が大変そうな場面が見られるようになり、改善しなければならないと感じるようになりました。それまでは、何とか現場に合わせてもらおうとか、時間が取れないから仕方がないなど消極的で、具体的に改善しようという気持ちすら持てていませんでした。しかし、新しいスタッフも無理なくできるようにすれば、従来のスタッフにとっても作業が楽になるということが分かりました。現場全体の負担を軽減できたことは、会社にとってもすごく有益なことでした。

阿部社長
今まで当たり前だと思っていたやり方に、まだまだ改善の余地があることに気付かされました。

先崎部長
例えば、アルミ製品を作る工程で、製品以外の余分な部分を木のハンマーで落としてパレットに詰める作業があるのですが、この作業には強い力が必要でした。そこで、ネジを一本立てて、ロボットが機械から部品を取り出す際に、そのネジに部品を当てて余分な部分を落とす仕組みを作りました。そうすることで、ロボットで取り切れなかった部分を、最後にハンマーで軽くたたいて落とすだけでよくなり、小さな力で作業できるようになりました。「ネジを一本立てる」という仕組みを開発したことで、作業の改善が進み、効率が大きく向上しました。

 
 
───作業環境の改善についてはいかがですか。

阿部社長
誰もが安心して働けるような職場をつくらなければ、人が集まらないという危機感から、常に作業環境の改善に努めています。

先崎部長
多様な人材を受け入れたことで、工場を綺麗にしようという意識が生まれ、現在では、以前の写真と比べてほしいくらい工場内が変わりました。
最近白く塗ったドアはかなり綺麗です。以前だったら、白く塗ってもどうせ汚れるから無駄だろうという意識がありました。床を緑色にして綺麗にし、整理整頓も徹底して、通路もすごく広くなりました。照明もLEDに変えました。1日で真っ黒になっていた作業着も、今ではほとんど汚れなくなりました。

阿部社長
久しぶりに現場に行くと、また一つ環境面で綺麗になっていたり、作業面が改善されていたりします。綺麗にすることで、些細な点も気付くようになってきました。例えば、配線はきちん枠を作って張りましょうとか、溝の蓋は目立つように色は変えた方がいいねとか、ひとつひとつ実行に移しています。

 
白い扉は、きれいで安全な環境を
つくっていこうという「シンボル」
になっています。

 

次々と働く環境が良くなっていくことに、
喜びを感じています。

 

 
 
───リフキさんやタンさんが改善にかかわったものはありますか。

リフキさん
アルミを溶かし、型に流し込むためのマシンが18台あるのですが、その1台1台について、どのくらいガスや電気を使用しているかが分かるプログラムを作って、数字を読み取れるようにしました。それまでは、18台をまとめた使用量しか分かりませんでした。

先崎部長
数字が「見える化」されたので、生産計画を立てる際に、マシンを動かし続けた方が得なのか、止めた方が得なのか、細かな計算ができるようになりました。 

リフキさん
廃油量の検知システムも作りました。以前は、現場の人が毎日、2回、3回と缶がいっぱいになっていないか確認しに行っていました。でも今は、タイマー制御で廃油缶がいっぱいになったら赤色のランプを点灯させて、システムが止まるようにしました。作業に時間が取られていたところを全自動でできるようになりました。 
 
  少しでも楽になればと思い、システムをアプリと連動させ、
手元でも操作できるようにしました。   
最新機器を使ってアイディアを形にできることが、
ものづくりの原点であり、やりがいでもあります。
タンさん
私は、工場の技術的な部門を担当しています。基板の実装に必要な治具(じぐ)は、100個とか500個とか買う必要があるけれど、値段も高くて、すぐに割れてしまいます。そこで、3Dプリンターで安く作る方法を考えました。

阿部社長
彼らは勉強をしながら自分で考えて改善してくれています。今まで、無理だと思っていたところを彼らの発想で変えてくれました。我々にない柔軟さがあると思います。

先崎部長
これらのイノベーションの源は多様な人材を受け入れることによるもので、その結果、個々が柔軟な発想を生かして取り組めるようになりました。

 
 
───コミュニケーションについてはどうですか。

リフキさん
難しい日本語は分かりません。早口で話されると、日常会話はちょっと難しいです。でも、スマホがあるので、分からない言葉があれば話しながら辞書ですぐ調べています。

タンさん
以前は、日本語が全然分かりませんでした。でも、がんばってコミュニケーションを取っていると、みんなが手伝ってくれます。私が分からなそうにしていると、どんどん話しかけてくれます。

阿部社長
外国での生活に慣れていたり、外国籍の方と長く一緒に仕事をしていたりすると、伝わりやすい話し方を自然に習得できると思います。もっともっと積極的に外国籍の方と接してほしいです。

先崎部長
現場の方もいろいろな取り組みをやっています。今までは、紙のマニュアルが多かったのですが、動画でマニュアルを作っています。リフキさんがメインで作ってくれているのですが、先輩の仕事の様子を動画に撮って、言葉だけでなく動きで伝わるようにしてくれています。新入社員が入ったときに、国籍にかかわらず、その動画でレクチャーすることで、仕事を早く覚えてもらえるようになりました。文字の表記だけではなく、視覚的に、より分かりやすく工夫しているという点で、かなり進んでいると思います。
日本人従業員にも変化がありました。人への接し方が柔らかくなって、人付き合いの仕方も変わってきたと感じています。体力を使う仕事なので、以前は一人で昼食を食べて、昼休みは車の中で昼寝をしたい人が多かったのですが、食堂で、みんなで昼食を食べて、その後ゆっくりしながら話すことが自然に増えてきました。よりコミュニケーションが取れるようになったと感じています。

 







社長の熱量と現場の勢いをつなぐことが、
リーダーの使命であり、大きなやりがいです。
 
───御社が目指す5年後、10年後のダイバーシティの姿をお話いただけますか。

これからも、ダイバーシティの視点を踏まえて、
全世界の人と一緒に働けるような工夫をしていきます。
阿部社長
自分たちのものづくりで世界を幸せにしたいです。5年後、10年後と言わず、もっと近い将来、全世界の人と一緒に働けるような場所をつくりたいと思っています。そのために、いろいろな国の人たちから気付きを得られるようアンテナを立てています。
また、現在働いているスタッフの中には、病気やケガ、介護、子育てなどいろいろな理由で、いったん仕事から離れないといけない人たちもいます。そういった人たちが、一時的に離れてもまた戻りやすいように、いつでも、働きたい人が、働ける時間だけ働くようなシステムを考えようとしています。そして、働き方の見直しと合わせて、限られたスタッフにしかできないような特殊な仕事を無くして、いかに負担を軽くできるかを考えています。弊社は、特にそれが難しいと言われている3Kの現場ですが、難しいからこそ挑戦し続けます。我々ができれば、他の工場でもできるはずですから。
弊社は、経営理念に「ハッピーメーカー、会社にかかわる人と社会のために幸せ製造会社を目指します」とうたっています。原点は、「かかわる人、かかわる環境、全てを幸せにするためのものづくり」です。原材料から形にしているので、ものづくりとしては一番初めの工程です。自動車の部品であれば、車の形をしていないため自分が何を作っているのか分からなくなりがちです。しかし、我々のような企業が無くなってしまったら、どんなにカッコいい車も完成しません。働いているスタッフが、「私がこの車を作っています」と自慢できるように、プライドを持って働けるような会社でありたいです。